(出典:明治大学付属世田谷中学校・高等学校のHP)

令和7年11月29日の朝日新聞に、日本学園中学校・高等学校の谷口哲郎校長による、体験学習に対する思いが掲載されていました。学校現場での実践に根ざした率直な言葉が印象に残ったため、ここで少し紹介したいと思います。

日本学園中学校・高等学校は、来春から共学化し、明治大学の系列校として「明治大学付属世田谷中学校・高等学校」に校名を変更する予定だそうです。その教育の根本に据えられているのが、同校独自のプログラムである「創発学」です。

学校教育の中核に「創発」という考え方を明確に位置づけている例は、これまであまり聞いたことがありません。知識の習得や技能の定着だけでなく、体験のなかから何かが立ち上がってくるプロセスそのものを重視しようとする姿勢に、この学校の教育観の特徴がよく表れているように思います。その意味で、「創発」という概念に目をつけたこと自体、まずもって素晴らしいと言わざるを得ません。

さらに谷口校長は、この「創発学」を「体験型の探究学習」とも表現しています。その具体像として、次のような取り組みが紹介されていました。

「まず体験することから始まり、中学1年の生徒は東京都奥多摩町で林業体験、静岡県沼津市でアジ養殖の現場に入ります。中学2年では宮城県石巻市で復興を学び、新しい農業や漁業を作ろうとする1次産業のひとたちを取材して発表してもらいます。

同時に生徒たちは国内のイングリッシュキャンプで英語がなかなか通じないという体験をする。中学3年では全員がオーストラリアに語学留学、高校では個人のテーマを探究します。感性豊かな時期にローカルとグローバルの視点を合わせた『グローカル』な視点を養うことで、日本の文化や社会を考えることにもつながります。

体験を通じて課題を発見し、試行錯誤しながら仮説を立てることを学びます。五感を使った体験は自分のことを考える機会にもなる。生徒自身の『得意』となる核が見つかると、自信となって思考力や判断力が磨かれ、『人間力』が鍛えられていきます。」

中学校から高等学校までという、人間としての土台が形づくられる極めて重要な時期に、「体験」を重視した体系的な教育が行われている点に、強い魅力を感じました。

ここで重視されているのは、頭の中だけで考える学びでも、教科書の中だけで完結する学習でもありません。また、限られた仲間内で閉じた形の学びでもありません。国内外の現場に実際に足を運び、そこで体験し、感じ、考え、ときには失敗もしながら、再び考え直す。そのプロセスを、教師の伴走的な指導のもとで積み重ねていく━━そのような学びが丁寧に設計されているように思えます。

体験を通して自分の関心や違和感に出会い、そこから「自分は何が得意なのか」「何に心が動くのか」を少しずつ見つけていく。その積み重ねが、やがて確かな自信となり、自分の進む道を自分で選び取る力につながっていくのでしょう。

「創発学」という名前が示すとおり、あらかじめ答えが用意されているのではなく、体験の中から一人ひとりの内側に何かが立ち上がってくる。そのような教育の姿を想像すると、これからの時代に求められる学校教育の一つの方向性が、ここに示されているように感じました。