2025年9月16日、都内のあるクリニックで手術を受け、そのまま20日まで入院していました。手術後の痛みはもちろん大変でしたが、それ以上に堪えたのは、何もすることがなく、ただベッドで横になっている時間でした。

普段の生活では、「暇であること」をあまり意識しません。しかし、食事以外にすることがなく、ただ時間が過ぎていく生活は想像以上に苦痛でした。本を読もうとしても頭がぼんやりして吐き気もあり、テレビさえまともに見られません。結局、昼間は寝るしかないのですが、そうすると夜は眠れなくなり、時間の流れがさらに遅く感じられるのです。

この経験を通じて、「何かすることがある」ということのありがたさを思い知らされました。本を読めば新しい発見があり、自分が前に進んでいる実感が持てます。こうした「前進している実感」は、人間にとって幸福や成長に直結する、大切な感覚なのだと強く感じました。

ダン・アリエリー教授が『不合理だからすべてがうまくいく』(早川書房)で紹介している「やりがい」に関する実験も、同じことを示しています。実験では、レゴの作品を作るごとに報酬をもらえるのですが、作った作品をその場で壊してしまうと、次にレゴを作る意欲がだんだん薄れてしまうというものでした。報酬は得られるものの、自分の苦労して作ったものが無に帰してしまうことで、前進している実感が消えてしまうのです。このことは、前に進んでいる感覚の大切さを象徴的に示しています。

ただ食事をして、あとは寝るだけ━━外から見れば楽そうに見える生活かもしれません。しかし実際に経験してみると、ただ「今を生きている」だけでは満たされず、何かしら成長や前進を感じられることこそが幸福につながるのだと思います。そして、これは教育という営みにおいても同じであり、人を成長させるには「前に進んでいる実感」をどう持たせるかが大切なのだと、あらためて気づかされました。