
社会人として働き始めた当初は、何をどうすればよいのか全く分からず、ともかく椅子に座り、隣や近くの席にいた上司や先輩に、ひとつひとつ教えてもらいながら、仕事を覚えていきました。
私が就職したのは昭和の時代。もちろん、インターネットもメールもなく、仕事の多くは紙と鉛筆で進めていました。今思えば、ずいぶんアナログな時代でした。
たとえば、ある仕事を任されたときは、まずキャビネットに保管された分厚いファイルから、関係資料を探し出して情報を集め、過去の経緯や前例を調べることから始まります。そこから参考資料をもとに原案を作成し、それを人数分コピーして、課内の打合せに備えました。
自分の課だけでは完結しない仕事の場合は、関係部署の担当者をひとりずつ訪ねて、紙の資料を手渡しながら内容を説明し、協力を依頼します。そして、締め切りまでにそれぞれの意見やデータを集めて取りまとめ、最終的に上司に報告する━━そんな一連の流れが基本でした。
今であればメール一本で済むような依頼も、当時は各部屋を歩いて回って直接お願いしなければなりませんでした。相手が不在であれば、何度も出直すのは当たり前。しかも、厳しい担当者だと、渡した紙の内容に細かく質問をしてきて、こちらがきちんと説明できないと、「こんな曖昧な内容では引き受けられない」と突き返されるようなこともありました。
今となっては信じられないような話かもしれませんが、そうやって何度も壁にぶつかりながら、仕事の基本や交渉の仕方、説明の仕方など、体で覚えていったのです。
いまの職場では、メールやオンライン資料のやりとりで、はるかにスマートに仕事が進んでいるように見えます。それはそれで、とても良いことだと思います。ただ、あの頃のように「人から直接学び、人に直接伝える」という経験が、私にとっては今でも仕事の原点になっている気がします。