
国立大学では、文部科学省からの予算確保や学生募集の強化を目的として、新たな学部の設置や既存学部の再編を検討するケースが少なくありません。
ある大学では、学部改編に向けて、学長を含む役員全員が毎週長時間にわたる調整会議を重ねていました。関係者が一堂に会して議論するこの形式は、効率的ではありましたが、大学特有の課題も浮き彫りになります。というのも、大学では執行部が単独で決定を下すことはできず、各学部との調整が不可欠だからです。
当然のことながら、既存の学部は現状の維持、あるいは拡大を望みます。そのため、大学執行部との話し合いは何度も重ねられますが、簡単に合意に至るわけではありません。
学長の特命を受けた副学長が、改革担当としてリーダーシップを発揮し、プロジェクトを前に進めようとします。しかし、特定の学部だけが優遇されていると見なされると、他の学部の理解は得られません。理屈だけでは動かないのが大学運営の難しさであり、関係者に「不公平感」を与えないよう細やかな配慮が求められます。ときには、学長との信頼関係が、状況を打開する鍵になることもあります。
さらに、新設学部には文部科学省との調整も欠かせません。私も、関係者とともに何度も省内を訪れ、担当者との対話を重ねました。その際に重視されたのが、説明資料の工夫です。新学部設置の理念や目的をしっかりと記述するとともに、それを裏づける独自のデータやグラフを用意し、パワーポイントで見やすくまとめました。というのも、最初の担当者が受け取った資料は、その後、課長や局長に伝わる際にも使われるからです。大学側が「一目で伝わる資料」を準備することは、極めて重要だと実感しました。
最終的に最も大切なのは、学部との丁寧な対話です。一部の教員や学部だけが利益を得る、あるいは不利益を被るという構図では、当然ながら強い反発が起こります。それを乗り越えるには、率直かつ誠実に、何度も現場と話を重ねる以外にありません。地道な努力の積み重ねこそが、新学部設置という大きな改革を成功へ導く道なのだと感じました。