人事異動があると、当然ながら後任者に業務を引き継ぐ必要があります。文部科学省の本省では、こうした引継ぎが非常に丁寧に行われており、10枚以上の資料が作成されることも珍しくありません。加えて、管理職に就く場合には、担当者からの「所管事項説明」もあります。いわば、至れり尽くせりの体制で、新任者がすぐに業務に取り組めるように整えられているのです。

こうした仕組みがあるおかげで、異動して間もなくでも、全力で仕事に取りかかれるようになる。引継ぎの整備が、組織全体のスムーズな運営を支えていると実感します。

一方、ある大学に異動した際には、引継ぎ資料も所管事項の説明もなく、最初は少し戸惑いました。これまで特に問題がなかったのかもしれませんが、私としては、手がかりがなく、どこから仕事に手をつけてよいのかが分かりづらかったのです。

そのような場合は、自分で情報を集めるしかありません。まず、担当することになった課へ挨拶に行き、その場で課長にお願いして時間をいただき、「どのような業務を担当しているのか」「どんな課題があるのか」を丁寧に教えてもらうところから始めました。

幸い、皆さんとても親切で、質問すれば快く情報を提供してくれました。ただし、こちらから積極的に聞きにいかなければ、必要な情報は自動的にはやってきません。黙っていると、基本的な情報すら得られず、仕事の全体像がつかめないままになってしまいます。

こうした経験を通じて感じたのは、組織として仕事を円滑に引き継ぐには、一定の「仕組み」が必要だということです。資料を整え、後任者に手渡し、必要に応じて口頭で補足する──こうした一連の流れがあることで、仕事のスタートがぐっとスムーズになります。

引継ぎは「過去を伝える」作業ではなく、「未来を加速させる」ための大切な橋渡し。組織の中で、その重要性を再認識した経験でした。