
大学の公式ホームページを見ていると、学長が腕を組んで写っている写真を目にすることがあります。そのたびに、私はある人物のことを思い出します。
それは、竹内敏晴先生です。『ことばが劈(ひら)かれるとき』(思想の科学社)という著作でも知られる竹内先生は、私が学生の頃には広く名の知れた存在で、全国各地で「竹内レッスン」を開催し、「からだ」と「ことば」の関係を探求されていました。
私の通っていた大学にも、竹内先生は非常勤講師として来られ、実際に身体を動かしながら言葉を交わすという、貴重な体験をさせていただきました。そこで、私は「腕組み」についての印象的な言葉を耳にしました。
竹内先生は、「腕組みというのは、自分のからだを手や腕で囲い、外からの刺激を遮断して、自分を守ろうとしている姿勢だ」とおっしゃっていました。その言葉は深く心に残り、それ以来、私は腕組みを「強そうに見せるためのポーズ」ではなく、「無意識の防御反応」として受け止めるようになりました。以来、人前ではなるべく腕を組まないようにしています。
さて、話を大学のホームページに戻しましょう。多くの大学では、学長や役員の紹介ページに写真が掲載されています。プロの写真家に依頼して撮影することもありますが、写真家の方々が「腕組み」の身体的・心理的な意味まで理解しているとは限りません。「堂々と見えるから」といった理由で、「腕を組んでください」とポーズを求めることもあるようです。
しかし、個人的には、やはりその「腕組み」のポーズには違和感を覚えます。見た目には力強く、威厳があるように映るかもしれませんが、それが本当に大学のトップとしてふさわしい姿なのか、疑問に思うのです。ちなみに、ハーバード大学やスタンフォード大学の学長たちの公式写真では、腕を組んでいる姿は見かけませんでした。
無意識のしぐさには、時として多くのことが表れてしまうものです。学長の写真は、大学の「顔」として社会に示される大切なイメージ。だからこそ、身体のあり方や表現にも、もう少し丁寧な配慮があってよいのではないかと感じています。