
大学では、すぐに使う予定のない資金を運用し、少しでも収益を得て、教育や研究活動の充実に役立てています。
国立大学では、国からのガイドラインに基づき、極めて慎重な資金運用が求められています。一方、私立大学では運用方針を各法人が自主的に定めるため、大学によっては比較的積極的な運用を行っている場合もあるでしょう。
私もかつて、担当役員として資金運用の責任を担った経験があります。その当時は、大学の資金運用は預貯金や国債、地方債など、リスクの極めて少ない金融商品に限定すべきだと考えていました。実際、その方針には多くの関係者の理解と賛同があり、その枠内で堅実な運用を進めていました。
しかし、その後、さまざまな経験を通じて考えが少しずつ変わってきました。仮に一時的に含み損が生じることがあっても、長期的な視点で運用するのであれば、少額に限って、ある程度リスクのある商品にも分散投資をしてよいのではないかと感じるようになったのです。いわば、「安全資産を中心としつつ、一部はリスク分散を意識したポートフォリオを組む」といった考え方です。生命保険会社の資金運用のあり方に触れたことが、この考えの転換の一因でした。
もちろん、こうした運用を行うには、一人で判断するのではなく、金融に関する専門知識と経験を持つスタッフの支援が不可欠です。というのも、金融商品を販売する業者から、「この商品は必ず儲かります」とか、「円高になりますから絶対大丈夫です」といった自信満々の説明を受けると、専門家でなくともつい判断を誤りかねないからです。冷静な助言をしてくれる人の存在が、リスク管理には欠かせません。
ハーバード大学のように、数兆円規模の基金と多くの金融専門家を擁するような体制であれば、ある程度のリスクを前提とした運用も可能でしょう。しかし日本の大学の場合、運用できる資金は限られているのが実情です。そうであれば、過度なリスクは避けつつ、着実に収益を積み上げていくという運用スタイルが現実的ではないかと考えています。