
大学によっては、教職員向けに宿舎を用意しているところがあります。私が以前勤務していた大学にも、やや古いながらも家賃の安い宿舎があり、多くの教職員が利用していました。
ただし、こうした宿舎では、ときに思わぬトラブルが発生します。あるとき、教員のA氏が別の大学に転出することになり、宿舎を退去することになりました。大学の宿舎では、退去時に「原状回復」が求められるのが通例です。しかし、このケースではその費用をめぐって問題が起きました。大学側が原状回復の内容や費用についてA氏と十分に確認しないまま、業者に簡易的に発注してしまったのです。
その結果、A氏は「納得できない」として原状回復費の支払いを拒否し続けました。施設担当課長は粘り強く連絡を取り、説得を試みていましたが、交渉は難航していました。私は当時その事案に関わっており、最悪の場合には訴訟を起こす覚悟で、対応策を調べ始めました。その中で、「少額訴訟」という手続きがあることを知り、支払いの拒否が続くならば、この制度を利用すべきだと考えていました。
しかし、ちょうどその頃に人事異動があり、私は大学を離れることになりました。結果としてこの件は後任者に引き継がれ、その後どう決着したのかはわかりません。おそらく、訴訟までには至らなかったのではないかと想像しています。
数年後、私は別件で実際に少額訴訟を起こすことになりました。ある会社が私の仕事に対する報酬を正当に支払ってくれなかったため、自ら東京簡易裁判所に出向き、必要書類を揃えて訴訟を起こしました。弁護士を立てずに「本人訴訟」として対応し、途中で通常訴訟に移行したものの、毎月一度の口頭弁論に出廷し、準備書面を自力で作成しました。
結果として、最終的には和解に至り、ある程度の報酬を取り戻すことができました。大変ではありましたが、手続きを通じて法的な対応力が少しずつ身についたように思います。
今振り返ると、大学勤務時代にこうした裁判の知識や経験がもう少しあれば、もっと迅速に、かつ的確に対応できていたのではないかと思います。それが少しだけ悔やまれる点でもあります。
宿舎の管理は一見地味な業務に思えますが、実は法的な知識や交渉力が問われる場面も少なくありません。関係者が適切な段階でしっかりとした合意形成をしておくことが、トラブル防止の第一歩です。