
ある組織で研究に携わっていた際、相関関係と因果関係の違いが正しく理解されていないのでは、と感じる場面に何度か遭遇しました。私は大学の教養課程で統計学を学んでいたこともあり、「相関と因果は別物である」ということは、社会人にとって常識だと信じて疑いませんでした。しかし実際には、必ずしもそうではないようです。
たとえば、「子どもの頃の体験」と「大人になってからの意欲や生きがい、モラル、人間関係能力」とのあいだに、一定の相関関係があるという調査結果が得られたとします。ここで注意が必要なのは、「相関がある=因果がある」とは限らない、という点です。ところが、その結果をもとに「子どもの頃の体験を増やせば、大人になってからの人格や意欲が高まる」といった因果的な結論を導こうとする動きがありました。
学問的に見て、これは正確とは言えません。そうした表現は誤解を招きかねないため、報告書の記述を慎重に修正したことがあります。自分一人の意見では説得力に欠ける場面もありましたが、「統計学の専門家もそのように指摘している」という形で伝えると、納得してもらいやすくなりました。
驚いたことに、大学教授であっても、相関関係と因果関係の区別があいまいなまま議論を進めているのでは、と思われる場面にも出くわしました。統計学を専門としていなくても、他分野で研究を深めれば教授にはなれます。しかし、だからこそ「相関がある」というデータから、あたかも因果関係があるかのような記述をすることの危うさには、もっと敏感であってほしいと感じます。
とはいえ、教授に対して正面から「それは誤りです」と指摘するのは、相手の顔をつぶすことにもなりかねません。そのため、なるべく角が立たないように、やわらかく意見を伝える工夫も必要でした。
学問の世界にいる方々には、ぜひとも統計学の基本的な知識、とりわけ相関と因果の違いについては、再確認していただきたいと思います。これは、研究の信頼性を守るうえでも、非常に重要な素養です。