
ある大学では、現在のキャンパスが手狭になったことや、学生募集の強化といった観点から、よりアクセスの良い都心部に新キャンパスを設け、そこに新設学部や既存学部の一部を移転させる計画が進められていました。
しかし、想定外の事態が発生しました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、新キャンパスの施設建設が大幅に遅れることになったのです。さらに、当初から一部の学部では「今のキャンパスにとどまりたい」という教員や学生の声も多く上がっていましたが、当時の執行部はそうした声を十分に聞かないまま、強引に移転を推し進めてしまいました。その結果、次第に不満が蓄積していきました。
こうした背景を受けて、新しい執行部が発足すると、計画の見直しが本格的に始まりました。そして、ある学部については移転計画を中止し、現状のキャンパスに残すという方針に切り替える決断がなされました。決定自体は迅速でしたが、その後の対応が非常に大変でした。
すでに「新キャンパスに通えるもの」と考えて入学を決めた受験生も多く、在学生の中には移転を前提に住居を選んでいた人たちもいました。そのため、方針転換によって通学が困難になるという声も少なくありませんでした。
こうした混乱に対しては、執行部と学部関係者が協力して、学生や保護者に向けた丁寧な説明会を実施し、必要に応じて一定の補償措置も講じました。多くの方々にはご理解いただけましたが、ごく一部からは厳しい非難の声も寄せられました。それでも、学長や学部長が先頭に立って誠実に説明・説得を重ねてくださり、最終的にはなんとか事態を収めることができました。この場を借りて、あらためて感謝を申し上げます。
今回の経験を通じて痛感したのは、キャンパス移転のような大学の根幹に関わる重大な意思決定は、関係者の合意形成を丁寧に行い、慎重に進めることの重要性です。計画の変更は、大学の信用や学生の生活に大きな影響を及ぼすため、拙速な判断は避けなければならないと、しみじみと感じた出来事でした。