2023年10月2日に行われたジャニーズ事務所の記者会見では、「指名NGリスト」の存在が明るみに出て、大きな社会問題となりました。このリストは、司会者に手渡され、鋭い質問を投げかける記者を意図的に指さないために使われたと報じられています。また、会見時間を2時間に限定し、質問も「1社1問」に制限した点も批判を集めました。

私自身、大学で広報室長を務めていた経験がありますが、こうした対応は、記者会見の本来あるべき姿からはほど遠く、誠実さを欠いたものだと感じています。

まず、会見時間に制限を設けることは基本的にありません。特に大学において重大な不祥事が起きた場合、説明責任を果たすには何時間かかっても対応する覚悟が求められます。「2時間まで」と線を引くこと自体が、すでに説明責任を放棄していると受け取られかねません。

会見の冒頭では、大学側から経緯説明や今後の対応方針を丁寧に説明し、その後に質疑応答に入ります。どれだけ厳しい質問であっても、逃げずに真正面から答える姿勢が不可欠です。基本的には学長が答え、必要に応じて理事や副学長が補足するというのが、誠実な対応の形です。

「1社1問」といった制限を大学側が設けるなどという発想は、そもそも考えたこともありません。それでは取材の自由が損なわれ、記者側の納得が得られるはずもありません。仮にそのような制限を設けたとしても、記者は簡単に引き下がることはないでしょう。

そして、問題の「指名NGリスト」についてですが、大学の会見でそのようなものを作成することは一切ありませんでした。質問内容が不快だからといって記者を排除するような対応は、かえって報道機関の不信を招き、不利な記事が出る可能性を高めてしまいます。

そもそも、記者会見とは、誠実さによって信頼を回復するための場です。不祥事があったからこそ、腹をくくって、真摯に事実を説明し、納得を得る努力をしなければなりません。

私の経験から言えば、誠実に向き合うことが、結果としてもっとも早く問題の収束へとつながります。マスコミを敵と見るのではなく、むしろ説明責任を果たすためのパートナーと捉える。そのような姿勢こそが、大学の信頼を再構築する第一歩なのだと思います。