今から10年ほど前、平成25年度(2013年度)のことです。香川大学では、長尾省吾学長と上杉正幸副学長のリーダーシップのもと、学部を横断する新たな教育プログラムがスタートしました。名称は「ネクストプログラム」。目的は、学部の枠にとらわれない総合的な学びを実現することでした。

当初立ち上がったのは、次の3つのプログラムです。

  • グローバル人材育成プログラム(英語コース・中国語コース)
  • 防災士養成プログラム
  • 人間探求(文学作品熟読)プログラム

現在では、プログラム数もさらに増え、発展を続けています。

なかでも印象深かったのが、「人間探求(文学作品熟読)」プログラムです。このプログラムは、学生が教員推薦の文学作品をじっくりと読み、読書レポートを提出し、それに対して教員がコメントを返すという仕組みで、最低でも30冊の読書が課されます。派手さはありませんが、学生に深い読書体験を促す、極めてユニークな試みでした。

私自身もこのプログラムに関わり、当時、自分が面白いと感じていた海老沢泰久の『美味礼賛』を紹介しました。うれしいことに、その本を読んだ学生からレポートが届き、私も丁寧にコメントを返しました。読書を通じて学生と知的な対話ができたことは、教育者としても忘れがたい経験です。

最近では、ゆっくり本を読む学生が少なくなっているように感じます。社会人も、仕事に関係する本は読むものの、それ以外の読書からは遠ざかっている人が多いかもしれません。また、知識を得る手段として、YouTubeなど動画コンテンツに頼る人も増えている時代です。

それでも、やはり本を通じて得られるものは特別です。先人の知恵や、多様な価値観、深い思索に触れるには、読書は欠かせない営みではないでしょうか。NHKの「100分de名著」という番組がありますが、どのような本を読めばよいか悩んでいる方には、良いヒントになると思います。私も毎回楽しみに視聴しています。

香川大学でのこの経験は、後に私が国立青少年教育振興機構の青少年教育情報センター(図書室)の運営を任された際にも活かされました。そこでは、若い世代にぜひ読んでほしいと思える良書を幅広く揃えるように努めました。その蔵書の中身については、また別の機会に紹介できればと思います。