
いま、私たちはAI技術が急速に生活に浸透しつつある社会に生きています。教育の現場でも、ChatGPTをはじめとする生成AIが授業や学習支援に使われるようになり、子どもたちの学びの風景が大きく変わり始めています。しかし、こうした技術革新の中でも、人間が「身体を使って体験すること」の重要性は変わらないのではないでしょうか。
2023年(令和5年)8月26日の朝日新聞に、国立情報学研究所の新井紀子教授と、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏との対談が掲載されていました。
この中で新井教授は、次のように語っています。
「AIと人間の一番の違いは、AIは身体をもっていないことです。またすべてを抽象的なデータから学んでいることです。ですから自分の身体や五感を使い、現実世界のなかでの体験を通して体得した知恵は、人間ならではの最大の武器となります。」
つまり、AIがいかに高度な処理能力を持っていたとしても、自らの身体を通じて「感じ、動き、考える」といった経験はできません。そこにこそ、人間ならではの知恵の源があるのです。
また、同日の朝日新聞では、栄光学園中学高等学校の望月伸一郎校長も、次のように述べています。
「今後、AIやデジタル技術が普及すればするほど、実体験を通じてしか得られない一次情報の価値は高まります。子ども時代に体と五感を使い、自然という想定外の世界を思い切り体験することが大事です。そんな体験をした子どもは好奇心や探求心のおもむくまま、自分から学びに向かいます。大学生になっても大きく成長します。社会に出てからは自ら課題を見つけ、解決できる人間になることでしょう。」
ここで語られているのは、単なる「知識の習得」ではなく、子どもたちが自ら体を動かし、五感で世界に触れることで得られる深い学びです。自然との出会い、思いがけない出来事、仲間との協働━━そうした一つ一つの体験が、思考力や創造性の土台となっていきます。
AIがどれほど進化しても、人間の「身体性」を通じて得られる一次情報や経験値は、代替されることはありません。だからこそ、体験活動の価値を再認識し、子どもたちが豊かな経験を積める環境を整えていくことが、これからの教育にとって一層重要になるのではないでしょうか。