
私立学校法の改正により、現在ではほぼすべての私立大学が中期計画を策定していると思われます。私もかつて、中期計画の策定に関わった経験があり、その際に感じたことや考えたことを記録しておきたいと思います。
中期計画に盛り込むべき事項は、教育、研究、財務、施設整備、人事など多岐にわたります。その中で、私が当時特に意識したのは、「自校の中期計画をどこに重点を置いて作るべきか」という視点でした。以下に、私が重視した主な観点を挙げます。
(1)学生・生徒を最優先に考える計画になっているか
大学経営の大きな柱は授業料収入です。その原資を提供してくれている学生の期待に応えることは、計画づくりにおいて最も重要な前提だと考えました。
(2)教育の質の向上と充実をめざしているか
大学は教育機関です。教育の改善と充実は満足度の向上につながり、結果的に優秀な学生の獲得にも結びつきます。
(3)大学の強みや特色を活かしているか
他大学との差別化を図り、限られた財源を有効に使うためにも、自校の強みや個性を明確に打ち出すことが不可欠です。
(4)研究の質的向上に向けた施策があるか
先端的な研究を継続的に行うことは、大学としての価値を高め、社会からの信頼を築く上でも非常に重要です。
(5)他大学の動向を的確に取り入れているか
情報発信、IR(Institutional Research)、情報セキュリティ、危機管理など、他大学が積極的に取り組んでいる分野については、後れを取らぬよう、計画にしっかりと組み込む必要があります。
(6)新設学部への支援体制が整っているか
新学部やその卒業生が企業などから高く評価されるよう、学内外のサポート体制の構築が不可欠です。
(7)施設・設備の整備計画が妥当か
キャンパスの魅力は志願者数に直結します。中長期的な視点から、施設整備の計画をしっかりと立てる必要があります。
(8)持続可能な組織運営が見込まれているか
将来にわたり安定した運営ができるよう、持続可能性を踏まえた財務計画の策定は極めて重要です。
これらの観点を念頭に置きつつ、実際の計画づくりでは全学的な議論を経て、最終的には理事会で何度も検討を重ねながら詳細を詰めていきました。
その過程で、特に重視されたのは「財政計画」でした。これはおそらく、どの大学においても共通の課題だと思います。将来的な施設整備も視野に入れながら、学生数の推移、教職員の適正配置、第2号基本金(将来の施設整備のための積立金)の額など、あらゆる要素を考慮して、徹底的に議論を重ねていきました。
中期計画は単なる形式的な文書ではなく、大学の未来をかたちづくる重要な羅針盤です。その策定に携わった経験は、私にとって非常に貴重なものでした。