香川大学でのことです。長尾省吾学長が就任して間もない頃、学生との懇談の場が設けられました。そこで学生からこんな声が上がったのです。

「大学に入学したけれど、高校の延長のような語学や一般教養の授業ばかりで、正直あまり刺激がない」「もっと、大学ならではの専門的で魅力的な話を聞いてみたい」

こうした率直な意見を受けて、長尾学長はすぐに動きました。そして生まれたのが、全学部の学生が参加できる新たな教育プログラム━━「アドバンストセミナー」です。

このセミナーは、夕方6時から90分間の枠で、シリーズ形式で開催されました。第1回の講義は、学長自らが登壇し、「生命について考える」というテーマで、アメリカでの若き研究時代の奮闘や、大学における最先端研究の魅力について熱く語りました。

その後も、プログラムは多彩な顔ぶれで展開されました。総合商社で世界を舞台に活躍したビジネスパーソン、IT企業から大学教授へ転身した研究者、iPS細胞の第一線で研究する科学者、日中関係に精通した大学内の専門家、地域のまちづくりイベントに関わる建築家など、学生の関心を引きつけるテーマが並びました。

こうした特別なプログラムは、香川大学に限らず、全国の多くの大学でも実施されています。ふだんの授業や演習だけでは触れられないような、社会の最先端にある知や経験に出会える機会は、学生にとって貴重な刺激になるはずです。

高校から大学へ進学した多くの学生は、「いままで知らなかった世界に触れたい」と思っているのではないでしょうか。そうした思いに真摯に応えることは、これからの大学教育においても、変わらず大切な使命だと思います。専門の学びだけでなく、学部の枠を超えた横断的なプログラムこそ、大学ならではの魅力であり、学生の知的好奇心を広げる力になるのです。