
私は、2020年に開催された東京オリンピックで、大会ボランティア「フィールドキャスト」として活動しました。主な任務は、オセアニアの国や地域から来日された要人のアテンド。専用車両に同乗し、ホテルから競技会場や選手村までの送迎を担当しました。わずか10日間ほどの短いボランティア期間でしたが、そこで私は、日本と海外の文化や生活習慣の違いを肌で実感することとなりました。
ある日、ボランティアのAさんが、X国のBさんと「翌朝10時にホテルのロビーで待ち合わせ」という約束をしていました。しかし、翌日はAさんが不在のため、私が代わってアテンドを務めることになりました。少し緊張しながらロビーで待機し、顔が分からないBさんを探すために、「X国」と書いた紙を胸に掲げて待っていました。
ところが、10時を過ぎてもBさんは現れません。少し遅れることは想定内として、30分ほど待ちましたが、それでも姿は見えず。携帯電話に連絡をしても繋がりません。忘れているのか、連絡が取れない状況なのか、結局1時間ほどロビーで待ち続けましたが、Bさんは現れませんでした。
似たような出来事は他にもありました。Y国の方とは、待ち合わせの時間になっても姿が見えず、電話にも応答なし。最終的に2時間ほど待った末、やむなくボランティア控室に戻りました。その後、本人から連絡があり、予定が急きょ変更になり、早朝に出発したとのことでした。
このような体験を通じて、日本では当たり前とされる「時間厳守」の感覚が、世界では必ずしも共有されていないことを実感しました。多くの国では、予定はあくまで目安。状況に応じて臨機応変に対応することが重視されるようです。出発時間や行き先が直前に変わることも頻繁にあり、予定外の人が突然同乗することすらありました。
Z国の方々をショッピングにご案内した日のことも、印象深く残っています。3〜4人でショッピングセンターに出かけたのですが、全員で行動するのかと思いきや、それぞれが別々のお店へと散っていきました。私は1人で同行していたため、広いお台場のモール内を走り回って、みなさんが迷子にならないよう目を配るのに必死でした。
「自由でいいですね」と思うと同時に、もしかすると、こうした柔軟さや個人の自由こそが、国際社会における “標準” なのかもしれない、と考えさせられました。
困難も多かったボランティア活動ですが、選手村で世界中のアスリートたちの姿を間近に見たり、競技場で女子ラグビーの熱戦を観戦できたりと、かけがえのない経験にもなりました。東京オリンピックを通じて、私は世界との距離をぐっと縮めることができたように感じています。